2016.2.29作成
2016.3.16修正

新スプリアス規格を考える(1)

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 本内容は各種資料をもとに検討・作成しました。誤っている点は逐次改訂します。
 お気づきの点がありましたら、掲示板経由でご連絡をお願いします。
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新スプリアス規格とは
世界無線通信会議(WRC)で、無線通信規則(RR)のスプリアス強度の許容値が変更されました。
これに基づき、2005年12月1日に無線設備規則が改正されました。
以降、変更後の規格を「新スプリアス規格」、変更前の規格を「旧スプリアス規格」と呼びます。
2年後の2007年12月1日以降に製造された送信機は、規則に従った機器として今後も免許されます。
これ以前の送信機は規則に合格した機器として認められなければ免許されませんが、猶予期間として5年後の2012年11月30日までは旧スプリアス規格の機器でも免許されました。その後、さらに5年後の2017年11月30日まで期限が延長されました。
今、この期限が迫って話題になっています。
規格の概要

上図は新スプリアス規格を説明するもので、総務省の発行のパンフレット『無線機器のスプリアスの規格が変わりました』から引用しました。
上記中心周波数で発射された電波は、発射エネルギーの大半を含む「必要周波数帯」の成分と、これ以外の周波数成分を含みます。必要周波数帯は、各モードで使用する占有周波数帯幅(SSBで約3KHz)と考えたり、V/UHFのFMのようにチャネル間隔とも定義出来るようです。
必要周波数帯以外の成分のポピュラーな事例が、本来の周波数の2・3倍に発生する高調波や、VFOと水晶発振等の異なる発振回路の混合で生ずる周波数成分です。
従来は主に後者の不要成分を「スプリアス」と称し、前者は注目されていませんでした。
一方、新スプリアス規格は目的外の周波数成分が「スプリアス領域」と「帯域外領域」に分かれました。
それぞれ電波法施行規則で以下のように定義されています。
六十三号
「スプリアス発射」とは、必要周波数帯外における一又は二以上の周波数の電波の発射であって、そのレベルを情報の伝送に影響を与えないで低減することができるものをいい、高調波発射、低調波発射、寄生発射及び相互変調積を含み、帯域外発射を含まないものとする。
六十三の二
「帯域外発射」とは、必要周波数帯に近接する周波数の電波の発射で情報の伝送のための変調の過程において生ずるものをいう。
六十三の三
「不要発射」とは、スプリアス発射及び帯域外発射をいう。
六十三の四
スプリアス領域とは帯域外領域の外側のスプリアス発射が支配的な周波数帯をいう。
六十三の五
「帯域外領域」とは、必要周波数帯の外側の帯域外発射が支配的な周波数帯をいう。
この定義から、まとめました。
  1. 帯域外発射は、必要周波数帯周辺に発生し、変調をかけた時に生ずる成分
    上記図で言えば、中心周波数に対し必要周波数帯(BN)の上下0.5-2.5倍の範囲
  2. スプリアス発射は、帯域外発射を除く不要成分
帯域外領域の規格が追加され、スプリアス領域の規格が強化されたわけです。
新旧スプリアス規格と矛盾
新スプリアス規格は、無線設備規則の別表第三号(第7条関係)を抜粋すると以下のようになります。
旧スプリアス規格は、電波法令抄録2005年度版を参照しました。
以下スプリアス領域の規格のみ、比較します。
周波数 旧スプリアス規格 新スプリアス規格
スプリアス領域 帯域外領域
30MHz以下 ◎1Wを超える機器
 50mW以下かつ平均電力に
 対し40dB低い減衰量
◎1W以下の機器
 1mW以下
◎5Wを超える機器
 50mW以下かつ尖頭電力より
 50dB低い減衰量
◎5W以下の機器
 50uW以下
◎1Wを超える機器
 50mW以下かつ平均電力より
 40dB低い減衰量
◎1W以下
 100uW以下
50-440MHz ◎1Wを超える機器
 1mW以下かつ平均電力に
 対し60dB低い減衰量
◎1W以下の機器
 100uW以下
◎50Wを超える機器
 50uW以下または搬送波電力より
 70dB低い減衰量のいずれか小さい値
◎1Wを超え50W以下の機器
 搬送波電力より60dB低い減衰量
◎1W以下の機器
 50uW以下
◎1Wを超える機器
 1mW以下かつ平均電力より
 60dB低い減衰量
◎1W以下の機器
 100uW以下
1.2GHz以上 ◎10Wを超える機器
 100uW以下かつ平均電力に
 対し50dB低い減衰量
◎10W以下の機器
 100μW以下
◎10Wを超える機器
 50uW以下または搬送波電力に対し
 70dB低い減衰量のいずれか小さい値
◎10W以下の機器
 50uW以下
◎10Wを超える機器
 100uW以下かつ平均電力に対し
 50dB低い減衰量
◎10W以下の機器
 100uW以下
さて、総務省総合通信基盤局が2007年12月に発表した『無線設備の「スプリアス発射の強度の許容値」の見直し』という資料を入手しました。ここには、電力の区分をせずに減衰量を表現しています。
表現の違いか?と考えてみました。
『減衰量』という送信電力とスプリアス電力の比較値(dB)と、スプリアス電力の絶対値が混在しています。整理するため、比較箇所をスプリアス電力に統一して説明します
 
◎30MHz以下の場合
無線設備規則から、尖頭電力(PEP)に対するスプリアス電力の規格(上限)を考えました。境界となる電力5Wのスプリアス規格は-50dBの50uWです。
つまり、電力5Wを超えると電力に比例して許容値は増加します。右図の青線は50uW、赤線は-50dBを示しますが、実線部が規格ということです。
5Wを超える場合のスプリアス規格『50mW』はまず引っかかりません。尖頭電力で5kWに相当します。将来5kWを認可する伏線でしょうかHi。
一方で下の資料の数式ですが、同様に電力5Wで計算すると減衰量は43+10log5=50dB、すなわちスプリアス規格は50uWです。
電力5W以下では43+log(PEP)のほうが小さいので、スプリアス規格は50uW一定、5Wを超えると電力に対して-50dBとなります。
内容は同じであることが分かりました。
◎50-440MHzの場合
再び無線設備規則を考えます。
搬送波電力1Wおよび50Wで条件が変わりますが、30MHz以下と同様に規格の値を全てグラフにすると、1W前後で右のように不連続になります。
電力1W以下のスプリアス規格は50uWなのに、1.01Wのスプリアス規格は-60dBで1.01uWです。ここは矛盾します。
規則に例外がないか確認しましたが、見つかりません。
どなたかご存じでしょうか。
搬送波電力50Wの前後は不連続になりません。電力が50Wを少し超えると、スプリアスは-70dBの値よりも50uWのほうが大きいので、上限50uWで推移します、
電力500Wの-70dBは50uWです。つまり、500W以上になると-70dBの値に依存するようになります。
現在は50MHzおよびEMEで電力500Wまでしか許可されないので、将来への規格です。
推測として1-50Wが50uWになれば、正しそうなグラフになります。
さて資料の数式ですが、70dBとなる搬送波電力は500Wです。つまり、500W以下であれば、スプリアス電力は50uW以下一定です。
従って、右図のような規格になっていると考えます。もっともらしい規格です。
2016.3.16修正・追記
ここに矛盾あり・・・と考えていたのですが、資料の下に注記がありました。
つまり、すでに基準が厳しく設定されている場合は現行規定を適用し、規格を緩めることはしない、という意味です。
結局、無線通信規則通りの考え方で、電力1Wを越えると規格が厳しくなります。
スプリアス電力の絶対値で議論すべきで、納得し兼ねるルールですが、お役人のなせるワザでしょうか。
◎1.2GHz以上の場合
搬送波電力500Wの-70dBは50uWです。無線設備規則では、500W以下全ての規格が50uW以下となります。
数式は上記50-440MHzの場合と同じです。
これは無線設備規則と合致します。
通常の免許では、1.2GHz以上は最大電力は10Wです。例外としてEMEがありますが、これも500Wまでであれば50uW以下となります。
新スプリアス規格(スプリアス領域)の強化ポイント
搬送波電力・尖頭電力に対するスプリアス電力を相対的にdB表示してみます。製品仕様では一般的な表現方法です。
◎30MHz以下の場合
旧規格は出力1Wの前後で不連続な設定です。
5W以上の電力に対し、10dB強化されています。古いリグは、フィルタでスプリアスを押さえ込まねばなりません。
5W以下も3-10dB強化されます。これも同様に対策が必要です。
0.5W以下は規格を現状に合わせたと考えて良いでしょう。スプリアスが外部に与える影響は、絶対値で決まります。QRPでも一律-50dBはあり得ません
0.5Wで-40dB以下、0.1Wで-33dB以下です。
◎50-440MHzの場合  2016/3/16修正
出力1W以下は、規格が3dB厳しくなります。
1-50Wは従来通りで、変化はありません。
50W以上で規格が強化されています。100Wで3dB、500Wで10dBです。50MHz、および144・430MHzのEMEは要注意です。
50・144・430MHzの市販リグは、モノバンドであったり電力増幅がモノバンドに分かれています。HFのような広帯域増幅は少ないので、内蔵のフィルタで従来から規格をクリアしています。
◎1.2GHz以上の場合
10W機では、従来規格に対し3dB強化されています。出力10Wとして、スプリアス規格は-53dBです。
10W以上はEMEの場合ですが、50Wで-60dB、100Wで-63dB、500Wで-70dBです。
現在の市販リグを調査
現在市販されているリグは、当然ですが上記規格を満足しています。
各メーカーの現行品のスペックを調べました。
HF帯(1.9-28MHz)は10W以上ばかりなので、ほぼ-50dB以下となっているようです。
50MHzは少し変わっていて、50W機は-60dB、100W機は-63dB、500Wのリニアは-70dBです。スプリアス電力の絶対値を規格以下に抑えるという考え方が理解出来ないと、dB表示の相対規格に面食らいます。
144-430MHzは10W以上は-60dB以下です。1-10Wでもほぼ-60dB以下ですが、0.5Wで-40dB以下というリグもありました。
 (例:FT-270ハンディ機  HIGH(5W):-60dB以下  LOW(0.5W):-40dB以下
リグの実力に合わせてスペックを記述した結果でしょう。
1200MHzの市販リグはわずかになりました。アイコムのIC-9100はオプションですが、10W出力で-53dBでした。
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