3.5MHz 同軸フィルタの製作

2015.5.7改訂
本記事は、2005年ころにまとめたものです。書式改訂に伴い、文章を一部改訂しました。
目的
毎夏、クラブでフィールドデーコンテストに移動運用で参加します。仕事や家族との都合でお手伝いがなかなか出来ず、夜間のオペレーションも欠席しています。
以前から、2バンドで運用する際に一方の送信電波がもう一方の受信に影響する(いわゆるカブリ)ことが気になっていました。
忙しいまま今年も当日を迎えましたが、急遽同軸フィルタを製作して使ってもらうことにしました。
参考文献はCQ誌にあり、切り抜きで保管していました。以前から作ってみたいと思い、部材も用意してありました。
なぜフィルタが必要なのか
なぜ「カブリ」が生ずるのか?という問題ですが、以下のようなものが考えられます。
  1. 送信電波のスプリアスが別の周波数を受信する他リグに入る
    送信電波の2倍、3倍・・といった整数倍の不要電波(スプリアス)が影響する可能性があります。
    最近のメーカー製リグは高い周波数をいきなり発生させるPLLを使用するので、高調波を多く含むリグはほとんどありません。しかし、決してゼロではありません。
    PLLになってからは特定のスポット周波数ではなく、広帯域なノイズ(フェーズノイズ)が問題になったことがありました。まだ勉強不足なのですが、この広帯域ノイズが送信電波に含まれることも無視出来ないようです。
  2. 送信された電波がアンテナを経由して他リグの受信部に入り、相互変調を起こす
    送信した電波がスプリアスの無いクリーンなものであったとしても、受信側で異常を発生させることもあります。
    近年のリグの受信部は、増幅部を広帯域にしています。ゼネカバ対応でアマチュアバンド以外でも受信を可能にするために、アンテナ入力部に数MHzの帯域幅を持つフィルタを挿入して離れた周波数の強信号を減衰させます。フィルタはリグによってさまざまで、特性が甘いと目的外の強信号を増幅してしまいます。これが本来受信したい信号と重なると、新たに不要な信号が発生します。これが「相互変調」です。
  3. 送信電波がアンテナ以外を経由して他リグの受信部に入る
    2台のリグに接続されているアンテナの同軸ケーブルはどのくらい離れていますか?束ねてあるから離れていない・・・・ということも多いのではないでしょうか。
    送信時の同軸からは想像以上に強い電波が出ています。束ねてあるということは平行になっているので、発生した磁力線によって結合し、もう一方の同軸に高周波信号を発生させます。
    SWR=1、つまり完全にマッチングが取れていればまだマシですが、SWRが高くなるほどアンテナからはね返ってくる反射波が増え、結合量が大きくなります。
    また、電源からの混入もあります。TVI対策にラインフィルタは有効ですが、これは電源AC100Vを経由して電波が外部へ放射されるからです。
目的周波数以外の信号を送受信しないフィルタが必要になりました。高周波フィルタといえばコイルとコンデンサで構成されるのが一般的ですが、測定器を持たないと調整が難しく、また耐圧の高い部品が入手困難である等の理由で自作は非常に少なくなっています。
そこで、今回はコンテスターやDXペディショナーに評価の高い同軸ケーブルを用いたフィルタを製作することにしました。
フィルタの原理
今回は送信用フィルタを製作します。
構造は至ってシンプルで、リグとアンテナの間に送信周波数の1/4波長の同軸ケーブルを接続するだけです。右図のように同軸の芯線と外被をそれぞれ途中で接続し、反対側を短絡します。
今回3.5MHz送信用のフィルタを製作するので、この原理を記します。
左下は3.5MHzの動作です。1/4波長のケーブルの下端が短絡されているので、上の接続点はインピーダンス大です。従って理論上は何も接続されていないと考えて良く、何ら影響を与えません。
右下は7MHzの動作です。7MHzでは1/2波長となり、上の接続点はインピーダンスが0に近くなります。リグ出力は短絡され、7MHzの成分はアンテナ側へ出力されません。
つまり、7MHz出力を抑制するフィルタとして動作します。
3.5MHzの場合 7MHzの場合
「送信フィルタ」という表現で書きましたが、受信信号も同じことが言えます。7MHzの強力な信号が入ってきてもここで減衰します。同時運用する上では、非常に便利なものと言えるでしょう。
ここで、「同軸ケーブル1/4波長」の意味を記します。
銅線やアルミ線のような電線(導体)の場合、波長λ(ラムダ)は無線工学の本にあるように
  λ=300/周波数(MHz)
で計算出来ます。ところが、表面が樹脂のような被膜が覆われると樹脂特性によって計算値がずれます。
このズレは、表面物体の誘電率ε(イプシロン)によって異なります。ワイヤアンテナを計算通りに作っても共振周波数がずれる(低いほうへずれるのが一般的)のはこのためです。
同軸ケーブルも同様で、一般の50オーム同軸では計算値の約67%(メーカーによっても異なります)と言われています。低損失ケーブル(例えばFBシリーズ)では約82%くらいだそうです。
今回3.5MHz送信フィルタは、長さは計算上14.3mくらいになります。
製作
手持ちの同軸(3D-2V)を利用しました。右写真のように同軸は手持ちのT型コネクタで接続しますが、直接ハンダ付けしてもかまいません。
(八木のスタックケーブルを直接ハンダ付けで作られた方もいるのでは?)
下に向かっている部分がフィルタです。
まずフィルタ部の同軸を計算値より少し長めに切断し、一方に同軸コネクタを接続します。一方は開放状態にし、コネクタをインピーダンスメータ(クラニシBR-200)に接続します。端が開放されていますから、コネクタ側で3.5MHzのインピーダンスが0に近づくまで端を切っていきます。
最終調整は、左写真のように左右にインピーダンスメータと50オームのダミーを接続し、フィルタ部の端を短絡しながら寸法を調整します。左のメータ表示はインピーダンスを示しており、7.03MHzでほぼ0になっています。
共振点を見つけにくい場合、2倍の14MHzで探すのも良い方法です。つまり、1/2波長 X 2 = 1波長でインピーダンスが0になります。
同じ考え方で、1/4波長 X 3 = 3/4波長の10.5MHzでSWRが最小になるところを探してもかまいません。調整方法はいくらでもあるのです。
特性評価
実戦で使用してもらい、効果がありそうだ、という話を聞きました。参考文献では特性評価データがありませんので、何とか出せないものか・・・・と考えてみました。
手持ちの測定器類を活用し、以下のような方法で評価しました。

左奥:
シグナルジェネレータ(SG) HP 8656B  トランシーバ TS-50
シグナルジェネレータ(SG)と受信機(トランシーバ)の間を直結した場合(上図a)と、両者の間にフィルタを取り付けた場合(上図b)で受信機への信号出力の差を見ることにしました。
まず、aの状態で受信機のSが一定値を示すようなSGの信号レベルを調べます。(今回はS=5となる値)
さすがゼネラルカバレッジ対応のリグ、ほとんど一定の値を示しました。
次にbの状態で同様なデータを取ります。これは周波数によって変化します。
そして、この2つの値の差(a−b)を求めると、フィルタの損失が分かる、というわけです。
入出力間の静電結合もありますから、40dB以上の値は信用出来ませんが、定量的なデータにはなるのではないでしょうか。
測定結果1
もちろん3.5MHzではほとんどロスはありません。徐々に周波数を上げながらデータを取った結果は以下のようなものです。左が4.0〜10.0MHzの特性、右が6.0〜8.0MHzを拡大したものです。
4-10MHz 6.0-8.0MHz
7.0MHz付近で-17dBの減衰量が確認出来ました。もう50KHz程度上の周波数に合わせるのがベストだったようですが、十分効果はありそうです。
測定結果2
前述したように、このフィルタはさらに2倍・3倍・4倍の周波数にも有効に働くと考えられます。ならば・・・と、14MHz、21MHz、28MHz近辺の特性も同様に評価してみました。
13.0-15.0MHz 205-22.0MHz 27.0-30.0MHz
14MHzでは最大18dBの減衰量がありました。100〜200KHz上に共振点を持ってくればベストです。
21MHzでは-15dB程度でしたが、十分効果が期待出来ます。
28MHzは帯域が広いバンドですが、コンテストの場合CWとSSBが主ですから28.0〜28,7MHzで減衰が得られれば十分でしょう。少し共振点を上げる必要がありそうです。
まとめ
ところで、15〜18dBの減衰ロスとはどの程度のものなのでしょうか。
HFのリグでも、S表示が非常に甘いものと辛いものがあります。S一つが何dBに相当する、と一律同じでもありません。昔はS一つが6dBという説がありましたが、S1とS9の差がわずか10dBという市販リグさえあります。
表現に苦しむところですが、今回の実験ではS5の信号がS1以下の判別出来ないレベルにまで減衰されることがわかりました。送信出力500W〜1KWは別として、100Wクラスなら十分ではないかと思います。
また、偶数倍の周波数にも有効であることがわかりました。周波数を変えて、いくつか試作してみようと思っています。
フィルタ部分の同軸を差し替えればいいわけですから、手ごろなフィルタですね。